3月23日(火)午後、アンスティチュ・フランセ東京にて映画『緑の牢獄』完成披露試写会ならびに特別対談が行われた。上映後の特別対談には本作の黄インイク監督、昨年出版した『なぜ台湾は新型コロナウィルスを防げたのか』が話題になったことも記憶に新しいジャーナリストの野嶋剛氏、伝説のドキュメンタリー制作集団・NDUの井上修氏の3名が登壇し、本作の魅力と制作秘話を熱く語った。
「西表島に炭鉱があったことは恥ずかしながら私も知らなかった。このテーマを見つけてきた時点で既にニュース性がある。地上の楽園といま思われている西表島にこんな過去があるという点でも意外性があり、作品の価値を高めている」長年中華圏と東アジア国際関係を取材した野嶋は本作のポイントを語った。本作は沖縄を拠点とする若手監督の黄インイクが「八重山の台湾移民」をテーマとする「狂山之海」ドキュメンタリーシリーズの二作目である。前作『海の彼方』は日本と台湾で大きな反響を得た。「最初おばあと会ったのは2014年の頭でした。私が台湾語で話しかけると、やっぱり孤独なところがあったからかとても喜んでくれて、深いところまでインタビューで話してくれるようになりました」と黄は語った。
7年の歳月を費やした今作は、主人公の橋間良子の88歳から92歳までの晩年を映し出す。試写会に参加した観客は「おばあの数奇な人生の境遇についてとても考えさせられた」「残酷ながらも映像の美しさが印象的だった」「シリアスな語りの中に現れるルイスの存在がとてもユーモラスだった」と様々な声があがった。
本作では主人公の橋間おばあの養父に当たる楊添福さんの映像が使用されている。これは伝説的なドキュメンタリー集団・NDU(日本ドキュメンタリストユニオン)が1970年代に復帰前後の沖縄を記録した名作『アジアはひとつ』の中に、収められた映像と肉声である。黄は数年前から元NDUメンバーの井上氏と交流し、50年の歳月を超えて、西表の台湾移民そして日本ドキュメンタリー史の鉱脈を受け継いだ。井上は「びっくりしたんですよ。50年前作ったものが、こうして若い人の作品で大切に使ってもらえて。(主人公の養父の映像を)見つけただけで、作品がうまくいく証ですよね。ドキュメンタリーにはそういう念力みたいなもんがあるんですよ」と感慨深く応えた。
黄は「最初は八重山の台湾人という、あまり知られていない謎の多いグループへの好奇心が根本にはありました。そこからどんどん移民や歴史という大きな枠組みから家族や個人への興味が強くなっていきました」と述べ、「沖縄というテーマは日本と台湾という形で捉えることもできますが、八重山というのはさらにその沖縄と台湾の狭間、西表というのは八重山と台湾の狭間の中の狭間にある形で、重層的に問題が見えてくる場所でもあります。そこに光を当てた作品を完成させた黄監督に敬意を表したいと思います」と野嶋がエールを送った。
3月27日(土)より桜坂劇場にて
4月3日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか全国拡大上映